上山 誠

株式会社上山建設
代表取締役

素直であれ


KAMIYAMA MAKOTO

波佐見町で輝き続ける「誠意×創意×熱意」

ひたむきに家と街を育む建築業界。その息づかいは、ただ鉄と木を組むだけではない。職人の汗が滴り、地域の未来を見据える眼差しがそこにある。嵐の日も、寒風に晒される季節も、安心と希望を紡ぐ手は決して止まらない。

長崎県波佐見町に根を張る株式会社上山建設は、住宅と公共工事、さらには造成工事や宅地分譲まで、一貫して“手の仕事”を40年以上に渡り重んじる企業だ。

彼らは普通の住宅会社ではない。設計士が創り上げた”ストーリー”を、大工が素早く、そして丁寧に編み込んでいく。自然光を切り取る大窓、新鮮な風を取り込む通気壁。建てられた住宅の細部まで計算されたその佇まいには、1980年設立以来の信念「誠意×創意×熱意」が刻まれている。その代表を務める上山誠。彼はまさしく「材木の匂いに育てられた」男である。

人を守る責任

上山建設の礎は、創業者である先代会長が大工として弟子を育て、5人、10人へと増やしていった共同体にある。自社の大工たちが、責任をもって現場を仕切る。設計事務所とのコラボレーションで九州全土から声がかかるのも、単に技術だけでなく「自分事として家を造る姿勢」が評価されてきたからにほかならない。

息子である上山は、地元の山や海、職人たちの声を耳にしながら育った。大学進学やバンド活動という“異文化”も経験したものの、幼少期からその家業を免れ難い運命として背負ってきた。

新卒で入った大手建設会社を29歳で離れ、故郷の石畳を踏みしめて波佐見に戻ってきた。「ここにしかない家づくりがある」その直感は、息苦しい都市にも、過剰な自己演出にも染まらない、ある意味無骨な実感だったと上山は思いに耽(ふけ)る。

しばしの“よそ者時間”を経て、建設業へ回帰した上山。現場の空気に触れた瞬間から、彼の心はたちまち現場のリズムと同期した。そして39歳、父からのバトンタッチを決意し代表に就いた。大手で身につけた安全教育の知見をもって臨んだ最初の改革は、社員による重機運転や現場管理の徹底だった。過去には痛ましい事故も経験したと語る上山。「手で造る家」以上に「人を守る責任」を痛感したという。その時固めた決意が、今日の社風を支えているのだろう。

上山は「安全に妥協なんてしません。職人たちが安心できる環境をつくるのは、社長の仕事ですから」と、低い声で、しかししっかりと断言する。

上山建設が出せる“色”

住まいを通じて地域を支える上山建設の強みは、単に、住むハコをつくるだけではない。住み手の声をズレなく現場に反映させ、暮らしの物語を紡ぐ、いわば“ものづくり”を実践している点にある。設計からアフターサポートまで一貫して自社で手がけるため、完成後も末永く付き合える信頼関係を築いているのだ。

そんな上山建設の社員は、設計スタッフや大工、土木チームを含め、2025年現在約45名。7時20分から始まる朝礼では、堅苦しい雰囲気はまったくなく、むしろ笑いが絶えない。同業者から見れば異色とも言えるこの空気感を、上山は大切にしている。

また、地域の子どもたちが主催するイベントや学校行事には会社ぐるみで参加するなど、支援を惜しまないようにしていると、上山は続ける。家族、仕事、そして地域との相互扶助を体現する姿勢こそが、上山建設ならではの文化と言えよう。

「もちろん専門的な資格は持ってはいますが、自分自身にしかできないような、唯一無二の特別な技術があるわけではありません。ただ…もしかしたら古臭いかもしれませんが、例えば親として、男としてどうあるべきかとか、そういったことは熱をもって伝えられます」と語る上山。言葉で旗を振り、叱咤と励ましをもって職人の志を引き出す。これこそ上山建設だけが出せる”色”だ。

ただ、素直に、礼儀正しく。

人口減少、技術継承の断絶、企業の再編。今、建設業を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。そのなかで上山は「現場の手仕事は絶対に残したい」と語る。慌ただしくトントン拍子で拡大するのではなく、地域に選ばれ、技術を研ぎ澄ませていく「じわりじわりの成長」を志向する。いや、成長というよりも、選ばれる職人としての在り方を深める営みと言ったほうがいいかもしれない。

最後に、若者へのメッセージとして上山はこう残す。「コミュニケーションの重要性を意識してほしいですね。例えば自分の権利だけ主張して、相手の立場になって会話することができない、そんな若者を見かけます。おはよう、ありがとう、ごめん。こんなシンプルな声かけが、実はチームの勝利に欠かせない重要な歯車だったりします。素直に、そして礼儀正しいコミュニケーションを続けることで得られる成長や達成感は、一人で得ることはできない、かけがえのないものですから」その言葉は、木の肌を愛でるように、人と人との接触や交流を慈しむ建築家でもある彼の本質を端的に示している。

素材を扱う手のぬくもりを知り、言葉で組織を編む男。彼の歩みと想いは、波佐見町から家づくりという日常を通して、人間という営みの豊かさを問い続けている。

上山 誠

株式会社上山建設 代表取締役

1969年1月20日生まれ。幼少期から家業の建設業を継ぐことを意識し、大学卒業後、大手建設会社で6年間経験を積む。29歳で上山建設に入社し、安全意識改革を推進。39歳で代表取締役に就任。地域活動にも積極的に貢献している。