
大友 拓海
Enagic株式会社
代表取締役
その欲は情熱と責任に昇華する
OTOMO TAKUMI
新進気鋭の“地方発マーケティングカンパニー”
風の匂いが変わる。都会のビル風が消え、田畑を撫でるそよ風が肌をくすぐる。地方で起業するとは、まるでこの風に帆をあげるようなものだ。困難は一つひとつが風向きのように変わる。一方で、地方ならではの魅力は都会よりも深い。四季折々の素材に溢れ、地域住民の顔が見える距離感がある地元資源を活かし、人との絆が経営の血肉となる。その絆は、都会の喧騒では得難い信頼を育む土壌でもある。
長崎の海風が肌をくすぐる町に、若き経営者が切り拓いた新たなビジネスの地平がある。Webサイト制作、マーケティング支援、そして民泊代行・開業支援という三本柱を掲げるEnagic株式会社は、代表取締役・大友拓海がわずか数年で築き上げた“地方発マーケティングカンパニー”である。
創業は2024年。小規模体制ながら、長崎・福岡を拠点にした事業展開を鮮やかに見せている新進気鋭の企業だ。
「後悔しない生き方を遂げたい」
振り返れば、その道のりは華々しくも泥臭い。青山学院大学を卒業後、新卒で証券会社大手の野村證券に入社、リテール営業で全国同期の上位2%に食い込んだ実績を背負いながら、さらなる数字を追い続けた。
その後IT企業でのマーケティング経験を経て副業をスタート。セミナー集客やコンテンツマーケティングのノウハウが評価され、他のIT企業からマーケティングに関する指南を求められたのがすべての始まりだった。
起業のきっかけを、大友は赤裸々に語る。「自由な時間と自由なお金を手に入れたいというシンプルな欲求も強かったのですが、やはり父親が早逝してしまった経験が何よりも大きかったですね。明日死んでしまうかもしれない。後悔しない生き方をしたい。やりたいこと、得たいことをすべて叶えるためには、起業するしかないと思ったんです」
セミナーが終わってもただ挨拶をするだけではない。専門的な分野について時間をかけてじっくりとクライアントと向き合うことを大友は大切にする。「現場を歩き、肌で感じる」という言葉を地で行くその姿勢は、Enagicがデジタルとアナログを自在に往来でき、地方企業の商習慣を深く理解する基盤となった。
“地方だからこそ面白い”の実現に向けて
Enagicの主軸となるのは三つの事業だ。まずはWebサイト制作事業。長崎や福岡など特定エリアに特化したSEO対策を武器に上位表示を実現し、問い合わせ数増加へとつなげている。営業・マーケティング支援事業では、膨大なデータを学習するAIを活用し、顧客の潜在ニーズを炙り出すキャッチコピー作成やターゲット層の開拓を伴走型でフォローする。そして民泊運営・代行事業では、大友自身が北海道でレーティング5.0評価の一棟貸し宿を運営しているノウハウをベースに、インバウンドの需要を捉え、地方で外貨を稼ぐことにチャレンジしている。
これら三本柱はいずれも「地方で稼ぎ、雇用を創出し、経済システムをつくる」という大友の描く“地方だからこそ面白い”の実現に向けた戦略的な布石である。特にノーコードツールの導入は、プログラミング不要でデザイナーの感性を最大限に活かしつつ、リニューアルコストを抑制する仕組みとして地方企業の内製化を後押ししている。こうしたデジタルと地域密着の掛け合わせは、顧客である長崎市内のハウスメーカーで検索結果1位を獲得し、売上向上に直接寄与する成果を生んだ。
欲は、責任になる
「黒字でも未来のビジョンが描けず、廃業を余儀なくされる企業があります。この虚しい倒産を私はなくしたいんです、自分たちが引き受けて、その事業の魅力を可視化して再び息を吹き返せるようにしたい」と大友は語る。その命綱を握り、M&Aによって再び息を吹き込む“地方版投資家オーナー”を志向するビジョンには、マーケティングと経営の本質を問い続ける彼の哲学が息づいている 。
そして、どんな目標でも構わないから、自分の欲を表現することが大切だと彼は強調した。「欲を持つということは責任を伴うということ。だからこそ、自分を律する原動力になります。高級車を手に入れたい、家を持ちたい、なんでもいい。その欲が、挑戦へと駆り立てる原動力となり、他人を巻き込むエネルギーになります」
大友 拓海
Enagic株式会社 代表取締役
青山学院大学を卒業後、新卒で野村證券に就職。リテール営業で全国同期の上位2%に選出。そのあとセールステック系IT企業でマーケティングとインサイドセールスを担いつつ、セミナー集客やコンテンツ開発をリード。2024年11月、地方企業の価値創造を目指しEnagic株式会社を設立。