小早川 武徳

SAGA久光スプリングス株式会社
代表取締役

スポーツは筋書きのないドラマだ


KOBAYAKAWA TAKENORI

感動を生み出すバレーボールチーム

ひときわ鮮やかなチームカラーが映えるサロンパスアリーナの玄関をくぐると、目に飛び込んでくる「SAGA久光スプリングス」。日本のプロ女子バレーボールチームのなかでも特に歴史あるチームだ。1994-95シーズンから始まったVリーグでは女子チームで最多の8度の優勝を誇る。2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した新鍋理沙や石井優希、荒木彩花といったオリンピック選手も複数輩出している名門としても知られている。

アリーナのなかで、選手たちはひたむきに汗を流し、ネット越しに魂をぶつけ合う…チーム運営を中心に据えながら、ホームゲームの興行やグッズ販売、さらには練習施設であるサロンパスアリーナの一般貸し出しと、多彩なスポーツビジネスを展開しているのが、SAGA久光スプリングス株式会社だ。

2025年5月に代表取締役に就任した小早川武徳。10年以上チームの運営に最前線で携わってきた彼が率いるこの会社の根底には、地域の活性化をミッションに掲げ、プロスポーツを通じた“感動”の創出をめざす姿勢がある。

古豪たる所以

創設は1948年。これまでの歩みは、平坦ではなかった。久光製薬時代に迎えた業績悪化による廃部の危機、神戸市のバレーボールチームとの運営統合によるダブルホームタウン制の採用、2012-13シーズンにチーム初の5冠を達成して復活の狼煙を上げた栄光、2023年にサロンパスアリーナの完成と、佐賀県・鳥栖市への活動拠点移転。そして2024年7月1日、地元佐賀への誇りを胸に、チーム名をこれまでの「久光スプリングス」から「SAGA久光スプリングス」へと変更。2025年6月からは、元日本代表監督の中田久美が就任し、チームとしてさらなる飛躍を目指す。

2013年に副部長として久光製薬スプリングス(現:SAGA久光スプリングス)に加わった小早川は、運営部長、事業推進室長、マーケティング部長、GM兼強化部長と、つねに最前線を走り抜いてきた。コロナ禍まっただ中での運営会社設立は、社内外から「厳しい船出」と評されたが、小早川は「止まらないこと」を信条にコミュニケーションを途切れさせずに情報を発信し続けた。その覚悟と行動力で常に前進を続けてきた。そこには苦境を跳ね返す“筋書きのないドラマ”があった。

興行収益で構成するサスティナブルビジネス

現在、小早川が大切にしていることは地域とのつながりだ。その一つに、サロンパスアリーナを地域共創のハブとする取り組みがある。メインアリーナはチーム練習に専用される一方、使用空き時間にはサブアリーナ2面を含めて市民に開放し、地域のスポーツ振興の拠点として活用されている。さらに鳥栖市との連携協定により、同施設は避難所として認定され、太陽光発電や雨水再利用トイレ、最大72時間の自家発電システムを備える防災拠点へと進化している。

こうした環境配慮設計は、持続可能な社会の実現を目指す取り組みの一例であり、女性スポーツチームとして、新たな可能性への挑戦といえる。

スポーツは筋書きのないドラマだ

近年、女子チームスポーツビジネスは急成長を遂げている。それも世界規模で。たとえば米国では2024年に年間収益が史上初めて10億ドルを超える見込みだ。日本では2021年に女子プロサッカーのWEリーグが発足し、2024-25シーズンからはSOMPOホールディングスがタイトルスポンサー契約を締結、DAZNや読売新聞らがブロードキャスティング・報道パートナーとして参画し、試合中継や情報発信の基盤が急速に整備されている。

そのような女性プロスポーツのポテンシャルを感じる一方、小早川は国内の女性スポーツにおけるビジネス規模や女性アスリートの選手寿命、セカンドキャリアの課題といった危機感も認識。佐賀から女性スポーツの新たな価値の創造、可能性を示していきたいと日々取り組んでいる。

「スポーツは筋書きのないドラマ。そしてそれはスポーツを越えて、一人ひとりの人生にも言えることだと思います。私たちは九州最大規模のSAGAアリーナをホームアリーナとして、エンターテイメント性の高い試合をお届けできるようになりました。コンテンツとしてのバレーボールも大きく変わってきています。ぜひ多くの方に会場に足を運んで頂き、その熱気と感動を肌で感じてほしいです」と小早川は語る。今後は、世界No.1クラブを目指し、チーム内外のリーダーを輩出し、選手やスタッフ一人ひとりの個性を最大限に伸ばすことで、一人ひとりが輝ける企業文化を醸成していく計画だ。

彼はこれからもこの佐賀の地で挑戦を続けていく。汗と情熱が交錯するコートには、勝敗を超えた何かが待っている。小早川が描く未来図には、地域の笑顔と活力が確かな筆致で刻まれているに違いない。

小早川 武徳

SAGA久光スプリングス株式会社 代表取締役

1975年7月19日福岡県生まれ。2013年に久光製薬スプリングス副部長としてチーム運営に携わり、2020年にSAGA久光スプリングス株式会社運営部長、2022年に鳥栖練習拠点事業推進室長、2023年にマーケティング部長を経て、2024年GM兼強化部長、2025年5月に代表取締役に就任し、チームを牽引している。